ロケスタ株式会社
代表取締役社長
長谷川 秀樹

後編:日本企業には本当のデジタルトランスフォーメーションが必要だ

Profile

1971年生まれ、1994年中央大学卒業。同年アクセンチュアに⼊社後、国内外の⼩売業の業務改⾰、コスト削減、マーケティング⽀援などに従事。
2008年に東急ハンズに⼊社後、情報システム部⾨、物流部⾨、通販事業の責任者として改⾰を実施。デジタルマーケティング領域では、ツイッター、フェイスブック、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。システム領域では、レガシーシステムを完全クラウドコンピューティング化・自社開発化をし、コストをかけずにシステム開発ができる体制を構築。
その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変⾰を推進している。
2011年に同社執⾏役員に昇進。2013年、東急ハンズのIT部門が分社して設立されたハンズラボ株式会社を⽴ち上げ、代表取締役社⻑に就任(東急ハンズの執行役員と兼任)。小売業・流通業向けのソリューションを提供している。
2018年5月、ロケスタ株式会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任(現職)。リテイルXテクノロジーに特化した事業に従事。
2018年9月に東急ハンズおよびハンズラボの職を辞し、2018年10月に株式会社メルカリの執行役員CIO(=Chief Information Officer/最高情報責任者)に就任。新しい流通の仕組み、エコ経済圏の発展のために従事。
2019年11月にメルカリを退社。
2019年9月発足の任意団体CIOシェアリング協議会に理事として参画、事業構想大学院大学で客員教授として活動するなど、各方面で活躍している。

※役職は、インタビュー実施当時(2019年12月)のものです。

◆ロケスタ株式会社◆
2018年5月に設立。長谷川秀樹が代表取締役社長を務め、リテイルXテクノロジーに特化した事業を展開。

「二毛作サラリーマン」など新しい働き方を提唱する長谷川秀樹さんは、ご自身も「プロフェッショナルCDO」という「少し違う働き方」にチャレンジしようと考えています。複数の企業でCDOを兼業する働き方には、どのような狙いがあるのでしょうか。

また長谷川さんは、メルカリでネット企業がもっている「新時代の仕事の仕方」を学んだと語り、日本のデジタルトランスフォーメーションを加速させることをご自身のミッションとして掲げます。それはどのようなことなのでしょうか。後編も、いろいろなお話をうかがいました。

「プロフェッショナルCDO」という働き方にかける思い

2019年11月、長谷川さんはご自身のWEBサイトで、メルカリを辞めること、「少し違う働き方」にチャレンジすることを表明なさいました。そのチャレンジの大きな柱である「プロフェッショナルCDO」という働き方について、詳しく教えてください。

長谷川さん(以下、敬称略):「CDO」は「Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)」の略で、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進する最高責任者です。

一般的な日本企業では、執行役員としての執行権限は社員に与えられるのが普通です。コンサルティングとして支援するような仕事であれば社外の人間に業務委託として依頼することもありますが、会社の中心で予算と権限と責任をもって任される仕事を社員以外に任せようとはなかなかなりません。

僕がこれからチャレンジしたいと考えている「プロフェッショナルCDO」という働き方は、フルタイムの正社員ではなく、業務委託として予算と権限と責任をもって執行するポジションを任せてもらうというかたちの仕事です。これを、複数の会社で兼業したいと思っています。

法的には、会社によっては社外の方と準委任契約を締結して執行役員の業務を委託しているケースも多いのではないでしょうか。それであれば、長谷川さんがおっしゃる形態の実現は難しくないように思いますが、いかがでしょうか?

長谷川:相当難しいと思います。会社法もありますが、まずは、前例がない。規定にない。のないないだらけです。しかし、現実問題としてはニーズはあると思うんですよね。あとは、今までの慣習なりをどう心の決着をつけるか。正社員と個人事業主として業務委託の常駐と何が違うのか、冷静に考える時期です。タニタさんの個人事業主の取組は素晴らしいと思います。従業員に選択の幅を持たせています。否定派の方はそうやって会社の都合のより方向に持っていこうとしている、なんてありますが、これは、従業員側にも都合が良いことがある、副業できる、などあるのですから、お互いの意味のない縛りをゆるくして行こうということでいい取り組みですよね。

長谷川さんが、業務委託でCDOという役職に就く、新しい働き方をなさりたいと考える狙いは、どこにあるのでしょうか。

長谷川:これもまた、日本の人材流動性の低さを改善したいという思いからです。

今の日本社会では、とりわけエリートと呼ばれるような人の場合、偏差値の高い人ほどリスクはとりません。非常に優秀なトップレンジの層はまた別として、ほどほどに頭がいい方であればあるほど、簡単に会社を辞めるような選択はしない。いい会社に一度入ったら、相当なことがない限りそこにいようとして転職しません。

そのため、イエスマンになるしかないのです。昔はリスクをとって仕事をしていたような人でも、課長、部長、役員と出世していけばいくほど、社長の顔を見て「おっしゃるとおりです」と追従を言うようにならないと出世はできません。でも、働き方が増えていけば、しがみつく必要がなくなります。そういうところから、ビジネスパーソンの意識が変わっていけばいいなと思っているのです。

もう一つ、CDOという職、執行権限を任せてもらうポジションに就くにあたって、ちょうどいいのがフリーランスなのです。正社員ではなく。トランスフォーメーションにリスクはつきものです。正社員では、思い切ったトランスフォーメーションは難しいのではないでしょうか。

社員でないからこそのメリットがある「プロフェッショナルCDO」

CDO職にフリーランスがちょうどいいという、その理由は?

長谷川:外から正社員として中途入社した人間が、入って早々に部長、役員といった既定のポストに就けば、もとから社内にいた社員はただでさえいい気持ちはしないでしょう。

ましてや、既存の社員の中には「自分が就くはずだったあのポストに長谷川が・・・」と考える人が出てくることも十分考えられます。出世を考える社員にとって、あとからやってきてポストをさらってしまう人間は“敵”です。

「新しく入った人間が上位職に就くんだ」「長谷川がいる限り、自分は一生そのポストには昇格できない」と思われてしまったら、すねられ、敵視され、表面上は「やっておきまーす」と言いながら裏では邪魔をされるかもしれません。ボディブローのように邪魔をされては、進む仕事も進まなくなります。

そこで正社員ではなく、既存のポストにも就かず、業務委託として仕事をするのです。ポスト争いとは関係ない人間だとわかれば、その点で既存社員の“敵”になることはありません。出世競争をしている社員からすれば、「いつかいなくなる人」のほうが一緒に仕事をしやすいのです。

それはまさしく、フリーランスだからこそのメリットですね。私にはその発想はありませんでした。それだけ、自分のポジションを守りたいということなのですね。

長谷川:それもやはり、根底にあるのは、人材流動性の低さです。人材流動がない、この会社でやっていかなきゃいけないと思い込んでいるから、ポストの確保に敏感になるのです。「私はずっとこの会社にいるのに、どうしてくれるんだ」と。

ポスト争いを抜きにしたとして、新しく来た長谷川さんのような存在に拒否反応が現れることはありませんか?

長谷川:転職でよくある間違いが、「子分、子飼いを数人連れて新しい会社に行くこと」です。上位職で転職しようとしたときに、会社から「1人ではつらいでしょうから、知り合いの方を数人採用してかまいません。好きにやってください」と言われたとします。そこで実際に気心の知れた部下を連れていけば、どうしてもその人間とばかり話しますよね。

そうなれば、もともと会社にいたメンバーは「新しく来た長谷川は、自分の子飼いとしか話さない」としらけてしまいます。それが高じて「長谷川の言うことは聞かない」となり、社内が動かなくなっていくわけです。肝心なのは、既存メンバーがいること、既存メンバーと仕事することです。そこで、「私は絶対に中途採用しない。このメンバーでやるんだ」と心に決めることが重要です。みんなの気持ちが動かないと、一人で改革なんてできないですから。

同様に、経営陣に「うちの社員はどうですか」と聞かれて「だめですね」と否定するのもいけません。よくないところを改善するために呼ばれたのですが、そこで「だめ」と言えばそれはすなわち、既存メンバーの人格否定です。その言動の延長では、やはりメンバーに嫌われるだけ。仕事はうまくいきません。

経営陣から聞かれたときに言うべきことは、「メンバーはふつうにやっていると思います。でも、もっといいやり方でやっていこうと思います、現メンバーで」だけ。その言葉が、思いが、どこからともなくメンバーに伝わるのです。そうしてみんなやる気になって、「よし、長谷川さんのやり方についていこう」となります。そもそもメンバーが悪いのではなく、長年の組織構造がもたらした結果なのですから。

本当のDXがホワイトカラーの生産性を飛躍的に高める

長谷川さんは、WEBサイトで「日本のデジタルトランスフォーメーションを加速させる」ことをミッションとして掲げていらっしゃいます。また前編で、ネット企業がもっている「新時代の仕事の仕方」について触れていらっしゃいました。この辺りについて、詳しくお話を聞かせてください。

長谷川:デジタルを基盤とし、その上でちゃんと働いているネット企業は、合理的で生産性の高い働き方をとっています。いわゆる「アフターデジタル時代の働き方改革」というものです。僕はメルカリで、オンライン企業の仕事の仕方を学び、ホワイトカラーの生産性に決定的な違いが生まれていることに感動しました。

その仕事の仕方を多くの日本企業が取り入れていけば、日本全体が上向きの力を得ることができます。とくに既存大企業は、高額を支払いネット企業の人材を雇うなどしてでも、そういう文化を注入したほうがいいと考えます。僕は日本の企業に、とくにエンタープライズ企業に、「デジタルトランスフォーメーションとはこういうことだ」というものを伝えたいのです。

メルカリで目にされた、オンライン企業の新しい仕事の仕方とは、どのようなものでしたか?

長谷川:従来のオフラインの会社で1つのプロジェクトを進める際の一般的な流れとしては、資料を作り、皆で揉み、資料をブラッシュアップして再検討、決議をとって担当役員の決裁をとる、これの繰り返しですよね。

そのプロセスの中で、マネージャーや役員といった決裁者は、目の前の案件1つひとつに対応していきます。つまり、判断・処理するCPUが1人1つです。その1CPUに対して次々アポが入ります。CPUが処理をするのは常に1つの案件ですから、処理待ちの案件がどんどん増えていき、待ち時間が長くなる。これが生産性の向上を妨げています。どれだけ優秀なメンバーがいても、結局は決裁者のスケジュールに左右されてしまうのです。

メルカリでは、Slack上にオンライン会議室がたくさんあり、それぞれの会議室でそれぞれのプロジェクトがパラレルで進行しています。そして、役員などの決裁者は、それらの案件にパラレルで対応していきます。決裁者1人にいくつものCPUが搭載されていて、並行処理が可能になっているというイメージです。

ですから、「部長の空き時間待ち」というムダがなく、物事がスピーディーに進みます。そうなると、優秀な人はそれだけ物事を進めることができますから、その分生産性が高まるということになります。

経営会議も、一般的な進行としては、会議が始まって、第1号議案を10分から15分ぐらい説明して、そのあと審議に入り、みなさんから質問がはじまる。その質問には、質問でない内容も混ざったりします。

メルカリの経営会議は、必要な資料やデータはGoogle Docsに書いてあるので紙の配付などはもちろんありません。会議が始まって第1号議案の説明を聞きながら、聞いている側はGoogle Docsのコメント機能で質問を書き入れておきます。すると、説明が終わったときにはもう質問が並んでいる状態に。そのなかで、Aという役員が書き入れた質問に、Bという役員が「それはこのデータだよ」と示すことも可能ですので、リアルの質疑応答の時間を使うことなく解決することもあります。

そういうことをしながら、同時に会社のオンライン会議室も全部並列で回しています。すべてを超並列で進行することで、全社で効率を高めているのです。

また、メルカリでは、会議室もドキュメントも、一部の重要データを除き、基本オープンでした。検索して興味をもつ会議室があったら、勝手に入ってきてもいいし、勝手に抜けてもいい。誰でもどの会議でも中を覗いて意見を出すことができます。ガラス張りのオンライン会議室という状態です。この情報のオープン性・透明性が非常に重要です。

このメリットは2つあって、1つ目は「私は聞いてない」問題を排除できること。情報は常に開かれているわけですから。2つ目は、「早く言ってよ」問題を排除し手戻りを減らせること。マネージャーから資料作成を頼まれて、途中で判断に迷うところがあったものの、マネージャーが忙しそうなので質問しづらかった。結果、マネージャーの意に沿わない資料ができあがり、やり直しとなる・・・。こういうことも、作成指示から作成過程がオープンであれば減らすことができます。

企業の文化に合うかたちで、DXの導入を進めていきたい

新しい仕事の仕方には、生産性を高めるさまざまな利点があるとわかりました。しかし、そういう働き方になれば、役職者も並行処理に対応していく必要がありますね。

長谷川:そうです。特に、上位になればなるほど見るべきセグメントが広くなりますから、並行処理の負荷は小さくありません。昔はスケジュールを見て「今はちょっと忙しくて」なんて言っていられたのが、否応なしにオンラインでどんどんやってきますから大変です。

従来のホワイトカラーは、情報の得方がバッチ型です。プロジェクトの進行も定期会議で1週間なり2週間ごとに報告を受けて情報を得るかたちで、その間の状況をキャッチアップできていないので、メンバーやコンサルタントとの意思の疎通に齟齬が生まれることが往々にしてみられます。その結果、生産性は悪化します。

オンライン会議室のような仕事の仕方では、すべての情報が常に少しずつ流れています。それを日々キャッチアップしていれば、会議までの日々に何がどう進んでいるかを把握でき、会議での意思決定がスムーズになります。そのように、情報がなめらかになるのもオンライン会議の利点です。

アフターデジタル時代の働き方改革によって、新しい仕事の仕方、新しい働き方へのシフトが進めば、Slackなどのツールにも対応していくことが求められるでしょう。

長谷川:多かれ少なかれ、あるいは早かれ遅かれそうなっていくでしょう。かつて、メールで仕事を進めることが広まったときも、最初は多くの戸惑いがありましたし、「メールで連絡するだけなんて失礼だ」「メールしてから電話するのがふつうだろう」などと言う人もいました。でも、いまはそれがふつうになりました。

社内は同じカルチャーですから移行もしやすいと思いますが、社外との仕事の仕方はどう考えたらいいでしょうか。

長谷川:それは、相手によって変わります。ただ現実としては、予想外に柔軟になっているケースもみられます。

先日、あるフリーランスの方が、誰もが知っている一部上場企業から仕事を受注したのですが、受注するまでの間に先方企業の担当者とリアルで対面することは一度もなかったそうです。大企業ともなれば、まずは会社を訪問して挨拶、そして提案して・・・と進むと思うものですが、企業の担当者から「すみません、Zoomでいいですか」と話があったとか。そうしてZoomで話して、発注が決まったのです。

僕はエンタープライズ企業出身なので、大企業ならではのハードルも高く見積もりがちですが、局所局所では案外変わってきているのかもしれません。

企業の文化に合わせて導入していくことが大事なのでしょうか?

長谷川:おっしゃるとおりです。メルカリの仕事の仕方はメルカリの文化があってこそのもの。いきなりエンタープライズ企業に導入するのは無理があります。生産性を上げる仕事の仕方にはいろいろなものがあり、企業の文化やDNAに合うあり方を考える必要があるのはいうまでもありません。

新しい働き方と、デジタルトランスフォーメーションで生産性を高めることで、時間にとらわれない、オールドな価値観にとらわれない働き方が可能になるのです。僕自身の新しいチャレンジを通じて、このことを広く知ってもらえるようになればと思います。

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