株式会社MOVED
代表取締役
渋谷 雄大

前編:1人で始めた会社が、アメーバのような生命体に。そこにあるのは「多様な働き方の応援」の思い

東京都在住。東京メディカルスポーツ専門学校鍼灸科卒業、シドニーで鍼灸師・スポーツトレーナーとして活動。帰国後、独立などを経て、ICTコミュニケーションズ株式会社に入社。IT業界へキャリアチェンジして、ITサービスの導入研修や資格試験の設計、研修講師、教育コンテンツ制作などに従事。2015年よりサイボウズ株式会社にも所属し、kintoneエバンジェリストとして年間140回を超えるセミナー・講演活動を担当、kintoneの認知拡大・ユーザー数増加に貢献する。2018年9月にICTコミュニケーションズ株式会社を退社し、株式会社MOVEDを設立。代表を務めるかたわら、サイボウズ株式会社のエバンジェリスト、ICTコミュニケーションズ株式会社のコンテンツビジネス事業部長、株式会社ロックオンのADEBiSエバンジェリスト(現在は契約終了)など、幅広く活動を続けている。

※役職は、インタビュー実施当時(2020年2月)のものです。

株式会社MOVED(ムーブド)
2018年9月設立。<「伝える楽しさ」を知ってもらい、誰かの“ココロをうごかす”社会をつくること>をビジョンに掲げ、エバンジェリストのプロとしてプレゼンの重要性を伝え、エバンジェリストを広く育成することを目指す。企業のイベント支援やプレゼンテーション研修などを手がけるほか、IT業務改善支援やWebマーケティング支援など、企業活動をサポートする事業も展開。「ココロを動かす」をキーワードに、価値をわかりやすく、ワクワクを乗せて伝えることを強みとし、クライアントの製品やサービスの価値を広める支援を行なっている。

企業のプレゼンテーション研修やイベント支援を通じて、伝える楽しさを広める活動を展開している株式会社MOVED(ムーブド)には、オフィスはなく、“社員”もいません。才気あふれる30名余りのメンバーは全員、MOVEDと業務委託契約を結び、フルリモートで仕事をしているのです。

代表取締役の渋谷雄大さんも、週3回ほどサイボウズのオフィスでエバンジェリストの仕事をしながらMOVEDを経営、そのほかにも仕事をもつなど、精力的に活動しています。「全員完全フルリモートでの仕事」「定額固定の業務委託契約」など、MOVEDの先進的な働き方について、渋谷さんにお話をうかがいました。

「一人社長」の会社から、「チームで動かす」会社へ

御社・株式会社MOVED創業の少し後、私は渋谷さんにお話を伺う機会がありました。そのときはお一人で活動されていましたね。それから1年ほど経った今、御社には30人余りの方がジョインされています。この1年にどのような変化があったのか、教えてください。

渋谷さん(以下、敬称略):会社を立ち上げたときは、そこまで人を増やそうとは考えていませんでした。会社自体も、事業の具体的な構想があって始めたというよりは、プロのエバンジェリストとして「伝えること」の楽しさを多くの人に伝えていきたいという思いで立ち上げたもの。個人事業主でもいいかなと考えたくらいでした。

でも、実際に会社を興して仕事を始めてみると、「せっかく会社を設立したのだから、もっと活動の規模を広げ、社会により多くの価値を提供していきたい」と思うようになりました。それに、自分1人で活動するのは単純に「つまらないな」と感じたのです。そこで、人を採用してみようと思い立ちました。

人材採用はどのように進められたのですか?

渋谷:最初はふつうにお金をかけて採用しようと考え、知人の人材紹介会社に依頼して人を紹介してもらいました。結果、2次、3次とは進んだものの、採用には至りませんでした。

それで、サイボウズのメンバーに相談したところ「Twitterで募集したらいいのではないか」と言われ、「エバンジェリストを育てる会社で、広報マーケティング募集」とツイートしました。すると、相談したメンバーがシェアしてくれた効果もあって、15人ぐらいからDMが届いたのです。

一般的な求人サイトからエントリーする方の多くは、具体的な事業・業務内容や条件が書かれている求人票を読んで選ぶでしょう。私の募集はそれとは全く異なり、ビジョンの訴求が全面に立っていました。「仕事があるから人に来てほしい」ということではなく、「人が集まって何かやろう」という思いからの募集でしたので。

その私の思いに対して、それだけの人が「一緒に仕事をしたい」という思いでもって応えてくれたのです。しかも、みんな特徴のあるメンバーばかり。当初は3名ほどの採用を考えていましたが、最終的には一気に8名ほどに入ってもらうことになりました。それが、今のかたちに至る最初のステップです。

今もTwitterで採用を?

渋谷:いまはWebフォームを用意していて、そこからエントリーを受け付けています。入力してもらうのは、私たちが大事にしている考え方や志を共にしてくれるかどうか、お互いの望む働き方ややりたいことが合致しているかどうか、を見極めるための項目です。志が一致していない人は、そもそもエントリーできないような内容にしています。そのエントリー内容を見て、詳しく知りたいと思う方には連絡し、Zoomでお話しして・・・といったかたちで進めています。

一般的な人材採用では、書類選考を通過したらリアルの場での面談へと進むことが多いですが、最初から実際に会うということはなさらないのですね。

渋谷:Webフォームのエントリーがひとつ大きなフィルターとなって機能しており、それで足りています。それに弊社の場合、メンバーには「社員としての雇用契約」ではなく「個人事業主としての業務委託契約」で仕事をしてもらうので、「とりあえず1回働いてみようか」がお互い気軽にできるのです。本当に合うかどうか、一緒に仕事をしてみないとわからない部分もありますから。そこは、雇用とは違う気軽さかもしれません。

円滑なフルリモートに必要なのはツールと対話

御社ではメンバーの方々が個人事業主として業務委託を請け負うかたちで仕事をされています。そしてオフィスに通うのではなく、皆さんがフルリモートで仕事をされている。それは最初からですか?

渋谷:そうです。募集告知を「フルリモートOK、複業OK」としたこともあり、メンバーはほかの会社で働いている人やフリーランスの人が多く集まりました。それもあって、「業務委託からはじめよう」ということになりました。2019年11月には東京・大岡山に初の拠点を設けましたが、それは作業や打ち合わせ、地方からの出張者の宿泊に使う場所であって、今も全員がフルリモートで仕事をしています。

使っている主なツールは、Slackと、Backlogというタスク管理ツールと、kintone。Backlogでは「今日何をしている」というのが可視化されるので、誰が何をしているか見えますし、日報なども不要です。定期的なミーティングとしては、月1回の全体ミーティングと週1回のチームミーティングがありますが、それもZoomで行ないます。メンバー全員とFace to Faceで会うのは、年1,2回あるかどうかです。

チームのなかで上下関係は?

渋谷:私も含めてまったくありません。私も「社長」とも呼ばせていませんし、チャット上ではメンションで呼びかけるので「さん」付けもないほど。社会的に必要な丁寧さは当然もって仕事をしますが、年齢の上下で敬語を使い分けるようなことはありません。メンバーの顔写真とやりたいことは共有していますが、お互いの年齢もよく知りませんから。

フルリモートで仕事を進めるなかで、トラブルなどはありませんでしたか?

渋谷:それはやはりあります。テキストベースのチャットでは伝えたいことを言葉にしたつもりでも、誤解なく受け取られるとは限りません。むしろ、メッセージの受け手はその言葉に感情を付与して読み取りがちで、「このメッセージからすると、自分に対して怒っているのではないか」「この人は自分のことを嫌いなんだ」と気持ちのベクトルがずれてしまう。あるいは、メッセージの意味を尋ねる質問がテキストでぶつかって険悪になり、最終的に言い争いになってしまうこともないとは言えません。

そうなったときは私が仲裁に入り、Zoomで対面して話すなどして解決します。最近はそうしたところに目配せしてくれるメンバーもいて、任せられる場面も増えてきました。チャットはとても便利なツールですが、チャット単体で伝わる情報量は本来の50%ぐらいなのではないかと感じることがあります。そこに表情や声のトーンが入るだけで、伝わるものはだいぶ変わってくるのではないかと。定例のミーティングをセットするようになったのも、そうしたことが背景にあります。

リモートワークは、自分から話したり行動しないと、何も起きていない、存在していないのと一緒になってしまいます。会社にいれば「いる」ことが一つの価値になりますし、その姿が視界に入ることで伝わるものがありますが、リモートワークはそうではありません。ですので、慣れていない人ほど、「自分からこまめにコンタクトをとってね」「何をしているのかを話してね」と伝えています。

「定額固定の業務委託」という働き方

ほかに仕事をおもちの方もいらっしゃるということですが、メンバーの方々が御社でどのように働いているか教えてください。

渋谷:弊社のメンバーは、フルコミットのメンバーと、フレキシブルに稼働してもらうメンバーがおよそ半々です。フルコミットといっても求めているのは専業ではなく、時間軸。質問をSlackで投げかけたときに、ある程度の時間内に反応してくれるスピード感です。私がメンバーに対していろいろ投げかけをしておいて、3時間後ぐらいにSlackに戻ってきたときに反応が返ってきているといいな、というような感覚が、フルコミットメンバーに求める理想です。

といってもその「3時間」はルールではありませんし、求めるスピード感は仕事によって異なります。企画やマーケティングの業務を受け持っているメンバーには、やはり速さを求めます。そうしないと仕事が動かないので。他方、デザイン系の仕事をしているメンバーは、進捗をある程度確認できていれば、Slackの反応は遅くてもかまいません。実際、Slackの確認は1日1回というメンバーもいます。

フルコミットメンバーに対しては、毎月定額の報酬を支払っていらっしゃると聞いて驚きました。

渋谷:フリーランスで働いていると、収入がどうしても不安定になりがちです。せっかく縁あって弊社に関わってくれたメンバーには、ある程度安定を得てほしいという気持ちがありました。定額固定の話は、そうしたところから出てきたものです。先にお話ししたように、最初に人を募集した段階では具体的な仕事内容が決まっていなかったので、「この仕事でいくら」という条件の提示ができなかったという事情もあります。

月ごとの成果などはどのように測っているのですか?

渋谷:測っていません。

それでパフォーマンスを発揮してもらえますか?

渋谷:私は元来、性善説で人をみる性質。たとえば、月額30万円を受け取っているメンバーが働いていなければ、30万円を受け取り続けるのが心苦しくなるだろうな、そうなれば、もっと成果を上げるための働き方を自分で模索して私に相談してくるのではないか、あるいは自分自身で働き方を調節するのではないか——。そう考える性格です。それに、「月額30万円」の価値の捉え方も皆バラバラですから、「30万円に見合うパフォーマンスを出せているかどうか」を判断するのは難しいですよね。

ただ、フルリモートという働き方は、見られていないと思うとどんどんモチベーションが落ちるものですし、見られていないからこその甘えというのはあります。不安もあるでしょう。そうした面をカバーする意味でも、メンバーからコンタクトをとってもらうだけではなくこちらからもコミュニケーションをとるようにして、自身の働き方が今適切な状態か、これからどうしていきたいか、といったことをメンバー自身で常に考えてもらうようには働きかけています。

私はマーケティング畑で、認知を広げる、リードを獲得するといった仕事をしてきました。こうした仕事は目に見える成果がすぐに出るものではありませんし、獲得した認知やリードは最終的に営業の数字になることが多く、マーケティングの成果としての数値化は難しいです。ですが中学生で、そうした仕事の積み重ねがとても大切であること、そのために下支えを頑張る辛さは身をもって知っています。ですから、「目に見える成果」という点にはこだわらないようにしているのです。

多様な働き方を応援するプラットフォームでありたい

御社で仕事をされているメンバーの方は、皆さんいろいろな特徴をお持ちという話がありました。たとえばどのような方がいらっしゃるか、教えてください。

渋谷:加藤路瑛さんは、中学生で「株式会社クリスタルロード」を起業し、取締役社長に就いています。中学生では法人登記ができないということで、お母さんの加藤咲都美さんが代表取締役を務めていらっしゃる“親子起業”スタイルですが、中心となっているのは路瑛さん。路瑛さん・咲都美さん共に「親子インターン」として、弊社のメンバーに名を連ねています。

あとは、高校生起業家としてニュースにもとりあげられた山口真由さん。大阪で高校に通いながら「株式会社BOUQUET LAB(ブーケ・ラボ)」を起業し、自身が代表取締役社長となってイベント運営などを手がけています。彼女は、2019年から参加しています。

2人とも、小さいころから起業や事業運営に対する思いがあって、自ら行動しています。弊社には2人も含めて若いメンバーが多いですが、彼らは素晴らしいアイデア、イノベーションを生み出すでしょうし、弊社にとっては彼らのような存在がターゲットにもなり得る。彼らがいるだけで発想が全然違ってきます。日本が彼らのような活動を引き上げる社会になってほしいし、MOVEDもそういう場所でありたいと思います。

そうした特徴あるメンバーと、これからもずっと仕事を?

渋谷:メンバー全員がずっとここにいる必要はないと考えています。メンバーが働いて生きていく中で、弊社での仕事が何かのきっかけになって活動の幅が広がっていったらうれしいですし、そこで弊社から旅立ってもいい。旅立ったとしても、つながれますから。それでも「ここにいたい」と思える会社、選ばれる会社でありたいと思っています。

今まではいろいろなメンバーが集まってくれて、それに合わせた仕事をつくっていたところがありました。働いてくれる人数が増えるなかで、定額固定の報酬を支払い続けていくことを考えても、目の前の案件をこなして売上をつくっていくことに活動が寄っていたのです。既存の事業に固執しないといえば聞こえはいいですが、ある種雑多な状態であったともいえます。今後は、そこを少し整えていきたいと考えています。

具体的にはどのようにしていこうとお考えか、お聞かせいただけますか。

渋谷:弊社で最初に仕事をしてくれたメンバーのなかには、車中泊で働いている人もいました。今も、シドニーで働いているメンバーがいます。加藤さんや山口さんのような活動をしているメンバーもいる。そういういろいろな働き方を、弊社はこれからも応援していきたいです。私がこの会社を経営する目的は売上、利益ではなく、そこに思いがあります。そのためにはやはり、売上をつくっていく必要があるのです。

社員を大切にして、働きやすい会社にしていくことと、ビジネスを両立させられる会社は実は少ないと思っています。リモートワークのマネジメントも難しいですし、業務効率としていいとは決していえないでしょう。それでも、その環境でビジネスをきちんと成立させて、多様な働き方を応援するプラットフォームのような存在に、弊社はなっていきたいと思います。

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