プロサッカーコーチ
株式会社Brilliant Future Consulting代表
石原 孝尚(いしはら たかよし)

後編:一人ひとりの強みを生かすマネジメントが組織の力を最大化する

1977年生まれ。2000年金沢大学教育学部卒業、2003年筑波大学大学院体育研究科修士課程修了。前橋育英高校サッカー部コーチ、帝京高校教諭兼サッカー部コーチなどを歴任。2012年INAC神戸レオネッサのヘッドコーチ兼U-18監督、2013年監督に就任。国内大会の三冠独占(リーグ・リーグ杯・皇后杯)に加えて、国際女子サッカークラブ選手権を制し、四冠を達成した。2014年米プロリーグ・NWSLのSkyBlue FCのアシスタントコーチ。2016年浦和レッドダイヤモンズ・レディースのコーチ、2017年同監督。2018年11月から豪州女子プロリーグMelbourne City FC Ladiesのコーチとしても活躍。現在は、岡山理科大学招聘教授、岡山県高梁市未来戦略課アドバイザーを務めるほか、株式会社Brilliant Future Consultingの代表として企業向けの講演・研修や個人向けオンライン勉強会などに携わる。サッカーだけでなく、IT、経済、女性の社会活躍などを世界中で学び、発信を続けている。

※役職は、インタビュー実施当時(2021年5月)のものです。

プロサッカーコーチとして、各国で豊富な経験を重ねる石原孝尚さん。現在は、その指導者経験で育んだチームづくりのメソッドを生かすべく、さまざまな企業での講演・研修に携わっています。その活動のなかで、企業で働く多くの人を見てきた石原さんは、「日本の企業には優秀な人が多いのに、プロフェッショナル人材として活躍できていないのではと感じることが少なくない」と語ります。

後編では、一人ひとりがプロフェッショナル人材としての力を最大限に生かすチームづくりや、チームづくりに不可欠である多様性のとらえ方などについて、お話をうかがいました。

国の代表選手でも得意不得意がある。一人がすべてを担う必要はない

石原さんがマネジメントに関する企業向けの講演や研修活動を手がけるなかで、さまざまな企業で多くのマネージャーや働く方々にお会いになっていると思います。そこで何かお感じになることはありますか?

石原さん(以下、敬称略):優秀な方の多さは至るところで感じます。しかし残念なことに、働いていらっしゃる個人としての「できること」「したいこと」と、会社から「求められること」の3つがうまくマッチしていないのでは、と感じることもまた少なくありません。

よく見られるのは、個人の「できること」「したいこと」という強みを生かさず、企業が「求めること」を押しつけているかのような人材配置です。例えば、野球をすればホームランバッターなのに、会社の人事事情などでなぜかラグビー部に配属されているような方がいます。そうしてラグビー部では「走れ」と言われている、といった具合です。

その方の「ホームランバッター」という能力を、ラグビーという分野や走る場面で発揮するのは難しい。でも会社はその姿を見て、「この社員はプロフェッショナルではない」と評価してしまいます。働く方個人にとって、力を発揮できないのは幸せではありません。企業にとっても、せっかくの力を生かせないのは不幸なことです。

その方の「ホームランバッター」という真の実力を正しく評価して、3つの円のマッチングを最大化できる企業が現れたら、その方はプロフェッショナル人材として活躍できる。ラグビー部に配属していた企業からすれば人材流出ということになるでしょう。

石原:おっしゃるとおりです。それと、個人に多くを求めすぎている企業も多いように感じます。

野球にばかりたとえて恐縮ですが、野球で外野の中央部を守るセンターというポジションには、守備範囲の広さや打球判断などさまざまな能力が必要とされます。そのうえ、センターまで飛んだ打球をホームまですばやく返球できる肩の強さがあれば、言うことなしです。

でも、何もかも兼ね備えた選手はそうそういませんし、実際の試合でセンターの選手が打球をホームへスピーディーに返球すべきシーン自体それほど多くありません。センターの選手が強肩でなくても、ショートやセカンドを中継してホームへ返球できればいいわけです。

にもかかわらず、日本の企業はセンターの選手に肩の強さまで求め、足りなければ自己研鑽を要請するといった求め方を、働く方々にすることが多いように思います。実現可能性の少ない事態を想定し、足りない要素を無理に補わせようとするよりも、その人の得意な部分を伸ばす、あるいは先の例でいえばセカンドやショートとの中継を強化するようなチーム形成をするほうが、企業にとってははるかにメリットがあるはずです。

僕はそういうスタンスでチームづくりをしてきました。これまで各国の優秀な選手を数多く見てきましたが、みんな「あれはできるがこれはできない」がありました。選手には、得意不得意も、好き嫌いも、プロフェッショナルとしてのプライドもあります。一人ひとりのそういうあり方を尊重し、みんなが自身の強みを発揮できるようなチームをつくりたい。それこそが多様性を認めるということだと思うのです。

「一億総活躍社会」に必要なのは、「足りない」を補い合うチームづくり

近年の日本では、少子高齢化の流れに歯止めをかけ、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」を創造するために、個の活躍、人材活用・組織づくりが重要視されています。新しい組織づくりにおいて重要なこととは?

石原:これまでの日本社会では、「組織のために個人がいる」「チームのための選手」という価値観が主流でした。会社が、働く個人の「できること」「したいこと」を尊重せず、会社の「求めること」に人材を当てはめてきたのは、会社の目的を達成するために働く個人がいる、だから目的達成するための「役割」に人を配置する、という考え方に基づいてきたからです。

でも先ほどもお話ししたように、万能な人というのは存在したとしても稀で、万能な人ばかりを組織にそろえるというのは不可能です。人が組織を形成する以上、「足りない」は絶対に発生します。ならば、働く方一人ひとりは自身の強みを最大限発揮することに専念し、誰かの「足りない」は仲間の誰かの強みでカバーする。そういうチームづくりを最初から志向するほうが、働く方一人ひとりも、企業も、みんな幸せになると思います。

自分の「できること」「したいこと」を発揮できるのは、働く方にとって幸せなことですよね。

石原:はい。働く方個人にしても、自分が何でもできたらいいに決まっていますが、理想と現実のギャップはあります。そのギャップだけを会社に見られて「こんなんじゃだめだ」「もっとできるだろう」と言われてしまうのは、自己肯定感が下がるばかりでモチベーションは高まりません。

でも、自分の「足りない」を補ってくれる仲間がいれば、一人ひとりが自身の強みを追究することに専念できます。「足りない」が自己肯定感の低下ではなく、「補ってくれてありがとう」という感謝に変わり、チームの仲間をつないで力を最大限発揮できる状態に導いてくれる。一人ひとりがプロフェッショナル人材として活躍するためには仲間、チームが絶対必要なのです。

そういうチームづくりを実現した結果、チームとして発揮できる力が最大化することで、個人ではできないような大きい目標も達成できるはずです。それが僕の考える「多様性の尊重」であり、チーム作りです。繰り返しになってしまうのですが、一人ひとりが自分の幸せを大事にすること、そのために一人ひとりが強みを発揮することが、すべての土台になると考えます。

個人の力を尊重する組織づくりには、多様な個に向き合うマネジメントが不可欠

一人ひとりの幸せを尊重するチームづくりを目指すにあたっては、個人の「できること」「したいこと」とチームが「求めること」のマッチング度合いを高めるのが難しいケースもあるかと思いますが、いかがですか?

石原:浦和レッズレディースの監督だったとき、僕は全選手と面談をしていました。それは選手の「できること」「したいこと」と、監督である僕が「求めること」、この3つの円を重ねるためのミーティングです。

僕は選手一人ひとりの「できること」「したいこと」を生かすことを最優先に考えますが、その「できること」「したいこと」は「今」という時間軸だけでは考えません。「未来」という時間軸でも考えます。そのため、選手には両方の時間軸でいろいろなことを自己開示してもらえるよう努めます。足は速いけれど、走るのは好きなのか。将来は選手としてどのようになっていきたいのか——。そのうえで、選手一人ひとりとチームの最善を考え、選手の生かし方を考えます。

その結果となる配置が選手の「今」望むポジションではないことも、その判断が選手をいらだたせることもあります。でもそうするのは、選手自身が認識できていない「盲点の自己」の強みを生かした配置であるとか、その選手の「未来」に役立つ経験になるはずであるとか、いずれかの時間軸で選手の「できること」「したいこと」に合致すると信じているからです。

そして、そのことを選手にきちんと説明し、選手の「できること」「したいこと」につながっている配置であると理解してもらうことができれば、選手のモチベーションを維持できます。

こうした人材活用を実現するためには、選手が安心して自己開示できるような安心感をつくることが重要です。これは、日頃からのコミュニケーションで人間関係を構築することが土台になると考えています。

近年は、飲み会やバーベキューなど、業務時間外のレクリエーションはむだだと切り捨てられがちですが、ふだんの筋トレやストレッチがケガ予防とパフォーマンスの最大化につながるように、日頃のちょっとしたコミュニケーションの積み重ねは本当に大事です。そうした配慮もまた、マネジメントに求められることだと思います。

事前にしっかりコミュニケーションをとっていることが、個人個人の活躍を生んでいる。そうしたコミュニケーションもまた、現代の組織づくりにおいてマネジメントに求められることなのでしょうね。

石原:「マネジメントは難しい」とよく言われますが、個性を尊重するということは多様性を認めることであり、多様性を認める瞬間に複雑性がセットになります。組織としてプロフェッショナル人材の力を活用しようと思うなら、その複雑性を受け入れて一人ひとりときちんと向き合うマネジメントは不可欠であり、それこそが現代のマネージャーに求められる力量ではないでしょうか。

社員一人ひとりの「できること」「したいこと」を尊重せず、会社が「求めること」に合わせて仕事をしろというのは簡単かもしれませんが、それではプロフェッショナルとしての力があっても発揮できないことになります。プロフェッショナル人材を活用できない会社には、プロフェッショナルであろうとする人材は集まらないでしょう。

オフラインでの活動が制限される状況下でのコミュニケーション

コミュニケーションのお話がありましたが、昨今は新型コロナウイルスの感染拡大で活動に制限が生じ、コミュニケーションも減っています。そういう状況における、チームの信頼感を維持・向上するためのコミュニケーションについて、どのようにお考えですか?

石原:従来の「組織のために個人がいる」という考え方に基づいて、会社が「役割」に人を配置するというやり方をするならば、個人個人のタスクの進捗を管理できればいいわけで、コミュニケーションは不要です。

でも、「個人のための組織」をみんなで作り上げていくためには、コミュニケーションがどうしても必要なんですよね。直接的な仕事の話をするのではなく、相手が何を思っているか、機嫌がいいかどうか、何を不安に感じているかを肌で感じられるようなコミュニケーションが。

今、リモートワークで精神的に孤立している方が数多くいらっしゃると思います。会社も働く個人も余裕がないなか、チャットツールで長々と雑談できる雰囲気でもなく、業務連絡のみが淡々と続き、仕事に関するフィードバックもない。そういう状況で、「あの内容でよかったのだろうか」「自分は必要とされているのだろうか」「この会社大丈夫なのだろうか」など、不安を抱えながら働いている方が多数いらっしゃるでしょう。

僕がマネジメントするとしたら、そうした部分も理解できるようなコミュニケーションを可能にする手段を用意します。今ちょっと、具体的には思いつかないのですが。今後新型コロナウイルスが収束に向かってもリモートワークという働き方はなくならないでしょうから、そういう働き方を前提とした新たなコミュニケーションの方法を考えることは、決して無駄にはならないはずです。

自分の強みを認めてくれる仲間がエンゲージメントを高める

こうした状況で信頼関係を築くのは容易なことではありませんね。

石原:オフラインでの行動が制限され、コミュニケーションの選択肢が減っている状況下では、確かに難しい面はあります。ただ、こうした状況でなくても、ある組織の全員が強固な信頼関係でつながるというのはそもそも難しいのではないかと、率直に思います。

それでも、A、B、Cの3人がいたとして、AとB、BとCがそれぞれ信頼でつながれていれば、AとCはBを介して一定の信頼関係を築くことができると思います。「BはAのこともCのことも悪く言わないだろう」という、Bとの信頼関係がいわば担保となるわけです。そういう関係性で、サッカーチームや会社組織が見えない信頼関係でつながることはできると考えます。

サッカーチームの監督という立場で考えれば、選手全員と直接信頼関係を結べるのが最善です。ただ、それができない選手がいたとしても、アシスタントコーチ、トレーナー、マネージャーといった誰かがその選手と信頼関係をつないでいてくれれば、その仲間を介して監督と選手はコミュニケーションをとることはできます。難しいは難しいですけどね。そういったマネジメントもあるということです。

信頼関係の構築も、組織によってさまざまな選択肢があるということですね。

石原:プロフェッショナルであることの条件として「できること(スキル、能力面で得意であること)」「したいこと(興味・関心があること、好きであること)」「求められること(会社、組織などに求められること、役に立っていること)」という3つの要素を挙げました。

そこに「仲間がいること(つながりがあること)」を加えた4つの要素が、働く方の組織に対するエンゲージメントを高めるために必要なことだといわれています。この4つの円の重なりが大きければ大きいほど、人は「その組織にいる価値がある」と認識するわけです。

得意な力を発揮できることやそれで役に立っていると実感できることは、人に幸せをもたらしモチベーションを向上させます。でも同時に、「好きだと思えること」「仲間がいること」が人に与える影響も、人が思う以上に大きいものです。

先に、理想と現実のギャップを「足りない」ととがめられるばかりではモチベーションが下がるというお話をしました。反対に、「今のあなたは十分すばらしい。そのうえでこんなこともできたらいいのでは」というスタンスで自分を認めてくれる仲間がいると、「じゃあやってみようかな」となります。僕は企業研修などで、そうした場面をたくさん目にしてきました。

自己開示の話ともつながりますが、コミュニケーションをとって人間関係を構築できるようになると、人はいろんなことを話してくださるようになります。企業で開催したワークショップで、「認められた」という実感を得て初めて話せるようになった、という方もいらっしゃいました。

働く個人の強みを認めて生かすマネジメントを考えれば、その方の「できること」「したいこと」は大きくなり、必ず組織の「力」や「結果」となって返ってきます。人は役に立ちたいものなのです。そして組織はその貢献に感謝する。その循環ができれば、必然的にチームの力は最大化していくでしょう。

<前編:「得意」「好き」「役に立つ」のマッチングがプロフェッショナル人材の活躍を生む>

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