ニューホライズンコレクティブ合同会社
代表
山口 裕二 氏/ 野澤 友宏

後編:70歳になっても80歳になっても「本当にしたい仕事」や「社会に対する価値提供」は可能になる

■山口 裕二 氏(トップ画像右)

ニューホライズンコレクティブ合同会社 代表

1968年8月26日生まれ、大阪府出身、東京都世田谷区在住。1995年、電通に入社。営業、海外出向や他社への出向を歴任。2017年、労働環境改革推進の中核として活動する専従組織である労働環境改革推進室の設置に伴い室長に就任、労働環境改革の担当として、社内改革や人事制度の構築などに携わる。2020年11月、ニューホライズンコレクティブ合同会社の設立に際し、電通から出向するかたちでNHの代表に就任。

‍■野澤 友宏 氏(トップ画像左)

ニューホライズンコレクティブ合同会社 代表

1973年7月17日生まれ、栃木県出身、神奈川県葉山町在住。1999年、電通に入社。コピーライター・CMプランナーを経て、2014年よりクリエイティブディレクターに。ユニクロ、ガスト、三菱地所、ナビタイム、リクルートなどを担当し、多くの話題作を手がける。2018年より、Human Resource Management Directorとして人事局のクリエイティブなどをサポートし、人事施策・後進育成にも広く貢献。2020年12月に電通を退職し、2021年1月にNHの代表に就任。

※役職は、インタビュー実施当時(2021年8月)のものです。

‍◆ニューホライズンコレクティブ合同会社◆

https://newhorizoncollective.com/

2020年11月12日、株式会社電通100%出資の子会社として設立。山口裕二、野澤友宏の両名が代表を務める。株式会社電通を退職した40代・50代のミドル世代のプロフェッショナル人材が、自立したプロフェッショナルとして中長期的に価値を発揮し続けられるようサポートする「ライフシフトプラットフォーム」の運営を通じて、プロフェッショナルパートナーとともに社会に対して新たな価値提供をすることを目指す。2021年5月には、新たな活動拠点となる「ニューホライズンパーク」を東京都人形町に設立。また、さらなる“働き方の多様化” “ミドル人材の活用” “地域活性”を進めるため、2021年4月より株式会社トランビと、同年5月より株式会社みらいワークスとの業務提携を開始。人生100年時代におけるミドル・シニア人材の新しい働き方とネクストキャリアの共創をより協力に実現すべく、活動を展開する。

平均寿命が延び「人生100年時代」ともいわれる昨今、60歳で定年退職しリタイアするという従来のライフプランは大きく形を変えつつあります。そうした状況を見据え、ミドル・シニア世代のプロフェッショナル人材が新しい働き方を手に入れ、次のキャリアを構築できるよう支援する仕組みが、ニューホライズンコレクティブ合同会社(NH)の運営する「ライフシフトプラットフォーム」です。

発表時には社内外から不安視する声も聞かれましたが、蓋を開けてみると評判は上々。実際にこの制度に参加して独立した方々からは「本当にしたいと思う仕事ができるようになった」「80歳まで仕事する意識が自分事になり、学びの重要性に気付いた」といった声が挙がっています。

後編では、NHの共同代表である山口裕二さんと野澤友宏さんに、ライフシフトプラットフォームに参加して仕事しているプロフェッショナルの方々の状況、会社退職後のキャリア構築や仕事に対する意欲の多彩さ、NHの今後の展望などについてお話をうかがいました。

「新しい働き方もそのための学びも仲間とできるコミュニティ」がプラットフォームの肝

2020年夏にライフシフトプラットフォームへの参加希望を募る公募を実施し、現在は約230名の方々がライフシフトプラットフォームに参加しているとうかがいました。メンバーになる条件は設定されましたか?

山口さん(以下、敬称略):今回の募集では、「新卒入社の社員の場合は、電通で勤続20年以上であること」「キャリア採用の社員の場合は、40歳以上かつ、5年以上電通に勤務していること」「60歳未満であること」としました。ですので、今のメンバーの中で一番若い方は40歳ということになります。メンバーの平均年齢は52歳。60歳未満を条件にしたところ、59歳11カ月といった本当にギリギリの年齢で手を挙げた方もいました。

実は電通社内では、「社内公募で100名以上の応募がなかったらやめる」ということを条件に決裁がおりていました。会社を設立しコストをかけて事業を実施することを考えると、100名以上の参加者がいないとスケールメリットが出ないのです。こうした取り組みには反対がつきものですし、社員のなかにも「単なる追い出しではないか」と反対する声がありましたが、蓋を開けてみると初日で数十人の応募がありました。

参加者の顔ぶれには納得感がありましたか? それとも意外?

山口:私は半々だと感じました。電通の中でも名前がかなり知られていて、顧客からもその能力を買われているようなスーパースター的な人材からの応募も少なくありませんでした。

ライフシフトプラットフォームの稼働が実際に始まって数カ月経ちますが、メンバーの方々の状況はいかがですか? それだけ多くのメンバーがいると、意欲的に活動される方から、雇用されているときとあまり変わらないように思える方まで、温度差も出てくるのではと想像します。

山口:「雇用されているときと変わらない」という感じは見受けられませんが、個人事業主や法人代表としての動き方がわからないという方はいます。基本的には自分が手を挙げて仕事を獲得することになりますが、新しい仕事にチャレンジしたいと精力的に動いている方もいれば、動いてはいてもなかなかうまく提案できない方、仲間と組めていない方というのも少なからずいて、悩んでいる方もいらっしゃるというのが正直なところです。

野澤さん(以下、敬称略):電通というと営業のイメージが強いかもしれませんが、クリエイティブの人間の多くは僕も含めて営業経験がありません。クリエイティブの提案活動の経験はありますが、それは「ここに提案する」ということがある程度明確になった状態からの提案活動でした。独立すると、その「ここに」を見つけるところから自分で始めなければならず、その点に苦労している方もいます。

山口:他方、ご自身で気付いて変わった方もいます。55歳のあるメンバーは、電通在籍時には「定年まであと5年か」と思っていたと。ところがこの制度に手を挙げて、「そうか、80歳まで仕事をするとしたら、あと25年あるんだ」と気付いたそうです。そして何をしたかというと、ご自身で何十万円というお金を支払って資格取得のコースに通いはじめたのです。電通にいたときはそこまでお金をかけて学ぼうとは思わなかったけれど、これから25年間自分でやっていくことを考えたら、今のうちにもう1回学んだほうがいいと思った」と話していました。金額の多寡はともかく、自ら学びに行っている方は多いです。それはやはり、意識が変わったのだと思います。それは本当にいい変化です。

野澤:それと、新しい働き方にチャレンジする仲間が約230名いるということ、その仲間とチームを組んで仕事をすることもできるという事実は、非常に大きいのだなという実感があります。電通では退職した人をつなぐ制度が今まではなく、1人で辞めるとその後の行く末がわからなくなってしまうことも多かった。電通では最近ようやく、電通卒業生と電通、あるいは電通卒業生どうしが交流するアルムナイ(卒業生)・ネットワークができましたが、それまでは退職された方とは疎遠になり、「あの人、今どうしているのだろう」という状態になることも多くて、もったいないなと思っていました。NHは新しい学びの機会を提供することも重視していますが、学びの観点でも近しいことを学んでいる仲間がいるのはモチベーションにつながります。いい学びには、いい仲間がいるものなのです。仕事にしても学びにしても、コミュニティがきちんとできること、仲間が生まれるということが、このライフシフトプラットフォームを運営するうえでの肝なのだなと感じています。

電通を辞めたからこそ得られる「本当にしたかった仕事」と「新しい出会い」

NHのメンバーの方々のご活躍をメディアでお見かけすることもよくあります。

山口:数カ月経って、興味深い話もけっこう見聞きするようになりました。例えば、「沖縄で仕事をしたい」という思いが高じた3人組が、沖縄でクライアントになりそうなところをリストアップして、その全部に手紙を書き、実際に沖縄を訪問して提案して回ったそうです。その結果、見事に仕事を受注することができました。好きな農業を仕事にしたいと、島根や伊豆に住んで農業を始めながら、地元企業と仕事をしようと取り組んでいるメンバーもいます。社内でアンケートを行なったところ、「移住してもいいから地域の仕事がしたい」と答えたメンバーが40名もいました。

野澤:まったく縁のない地域に移住するメンバーもいれば、Uターン的な移住をしたメンバーもいます。生まれ育った地域や縁のある地域では、地縁で仕事を開拓しやすいという利点がありますし、思い入れをもって仕事できるということも。電通で名だたる売れっ子CMプランナーだったメンバーはNHでも稼ぎ頭のお一人ですが、地元である愛媛の仕事をしています。それは本当に小さな仕事ですが、地元の役に立てることがうれしいそうで、本当に楽しそうに地元の仕事をしています。

若い頃は、大きなキャンペーンの仕事を任せられた、マスメディアの仕事に携わることができた、といったことがとてもうれしいものです。けれど、年齢とともにクライアントの大きさではなく、本当に応援したい企業、近くにある存在を大事にして仕事をしたいと思うようになる。

先日抹茶カフェをオープンしたメンバーは、電通時代コピーライターで、僕の師匠です。彼女はもともとお茶の先生でもあり、伝統文化に携わる企業や老舗のお茶屋さんと昔からお付き合いがあったそうです。そこで何かサポートできないかという思いは昔からあったものの、中小企業が多く、電通として仕事をすることが難しかったと。思いがあっても仕事にならない、人脈があってもボランティアになってしまう、そういう問題意識があったそうです。そんなときにライフシフトプラットフォームが立ち上がり、「応援したい人を応援することを仕事にしたい」と手を挙げた。彼女は今、宇治の老舗のお茶屋さんとお仕事をするなど、思いを実行に移しています。

社会に貢献したいという思いをお持ちの方も多い?

野澤:多いです。スキルや専門知識を活かすボランティアである「プロボノ」の案件に興味をもち、それをどうにかNHの仕事にできないかと考えるメンバーは多いです。NPOやNGOの案件もそう。どこの団体もコミュニケーションスキルに長けた人がなかなかいなくて困っているというところに、「元電通」のメンバーがちょっと行くといろんなことを頼まれるそうです。

年を重ねると社会貢献意欲のようなものが出てくるというのは感じます。長年電通で仕事をしてきたミドル・シニア世代という点では、お金の心配もそれほどなく、ある意味“できあがった”方も少なからずいます。そういう方々にとって、社会貢献意欲が次のステージにおける強いモチベーションになっています。

それと、NHへの仕事の入り方としておもしろいのは、メンバーのパパ友やママ友からの仕事が意外と多いこと。もともとメンバーと知り合いで、メンバーが電通勤務でプロのスキルを有していることは知っているものの、電通を相手に仕事を頼むのは難しいと思っていたと。

そこへメンバーが電通を辞めたと知り、仕事を依頼するといった流れだそうです。そのパパ友やママ友の勤務先が大企業や有名企業であることも。報道でNHの取り組みを知り、問い合わせしてきてくださるケースもあります。これは“電通”でなくなったからこその、でもプロフェッショナルならではの、仕事の入り方だと思います。

“電通ブランド”が、むしろ辞めたからこそ効くというわけですね。NHでの活動を通じて、新しい出会いの機会も増えるのでしょうか。

野澤:はい。先ほどお話ししたパパ友・ママ友のケースのように、電通時代に薄くつながっていた人と、辞めたことがきっかけとなって新しい関係がつながっていくこともあります。そもそも約230名のメンバーどうしも、全員が電通の中で知り合っていたわけではありませんので、そこだけでも新しいつながりができることもあるでしょう。僕はクリエイティブにおりましたので、NHの仕事をするまで経理の方や会計士さんと仕事をすることはまったくありませんでした。そういう出会いは楽しいです。

人生100年時代の個人・企業・社会に「三方よし」となる取り組みを目指して

NHとして、今後どのような展開を計画されていますか?

山口:直近で始める取り組みを一つご紹介します。株式会社宣伝会議の会長が理事長を務める「社会情報大学院大学」という私立大学があります。ここには「実務家教員養成課程」といって、実務経験を活かして大学や高等専門学校で人に教えるための勉強をするコースがあるのですが、ここで10月から半年間、NHのメンバーの希望者に学んでもらうことになっています。

この学びによってメンバーが「スキルを活かした“講師”として社会でまた新たな価値を発揮することができるように」というのが狙いで、履修後は実際に大学の講師を務めてもらうプログラムになっています。これは、学校と一緒になって取り組んでみようというある種の実験的な取り組みで、すでに三十数名のメンバーが手を挙げています。

今は世の中的に、学びを求めるニーズが非常に高まっています。そうした状況で、定年のない人生100年時代を生きていくときに、人に教えるスキルを身につけ、今まで蓄積してきたスキルをシラバスに落とし込んで体系化し、講師としてきちんとやっていくことができれば、新たな収入も確保できるようになりますし、何よりおもしろいと思います。電通での実務を通じてこれまでに学んだことをまた違う面から学び直し、今度はそれを自分が人に提供する学びに変えることでビジネスにするというわけです。

野澤:もともとNHでは立ち上げ当初から、「メンバー全員を先生にするプロジェクト」というものを考えておりました。そこへ社会情報大学院大学からお声がけをいただいて、願ったり叶ったりだったんです。「教える」というスキルがあると、カルチャーセンターから教育機関まで仕事の幅が広がりますし、講師という仕事は絶対長くできるはずです。

今はオンラインでの学び提供も増えていますから、教えるものがあって教えるスキルがあれば、最初は1時間のセミナーから始めて、1時間のセミナーができたら3時間のワークショップ、3時間のワークショップができたら3日間のコース、という具合にどんどんふくらませることができます。さらには検定ビジネスもできるかもしれません。これまでの数十年間に蓄積したスキルを社会に還元するという意味でも、教えるということをプログラム化できるようになるのは非常にいいことだと考えています。

聞けば聞くほど、本当にすばらしい取り組みだと感じます。当社みらいワークスでも人生100年時代の到来を見据え、ビジネスパーソンが人生100年時代を生き抜くためのサポートをしたいといろいろな事業に取り組んでおります。業務提携というご縁を得て、御社とシナジーを生み出せるよう努めたいと思います。

山口:NHとライフシフトプラットフォームに関する企画書を最初に社長に提案した際、こんなことを言われました。これは、御社の理念と近しい内容ではないでしょうか。

「もし社員が電通でパフォーマンスを出せていないとしたら、それは社会に対して価値を発揮できていないということ。人を財産とする会社という存在としては、その財産を活かしきれていないということであり、財産を活かす術が今のところ当社にはなかったということ。会社としてそういうところまで面倒を見きれていない現実があるなか、人生100年時代に新しい働き方にチャレンジするというなら、それを応援するのは会社の責任かもしれない。今は会社であまりパフォーマンスを出せていない人間が社会に価値を発揮できるようになる、それが70歳になっても80歳になってもできる、そういう時代をつくれるのなら、それはぜひチャレンジしたい」

ミドル・シニア世代の人材をどう活用するかというのは、電通のみならず、日本の企業全体、社会全体の課題といえます。ライフシフトプラットフォームは、個人・企業・社会に「三方よし」となることを目指している試み。プロフェッショナル人材が次のステージへ安心して飛び立てるようにサポートしながら、今後も積極的にさまざまな取り組みを行っていきたいと思います。

<前編:人生100年時代におけるミドル・シニア世代の新しい働き方支援は、会社員という働き方の“限界”から生まれた>

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