株式会社北國銀行
常務執行役員 法人ソリューション部長兼コンサルティング部長
多田隆保

前編:「本当の意味でお客様の悩みに応える銀行」への変革を実現するのはITと人材

株式会社北國銀行 常務執行役員 法人ソリューション部長兼コンサルティング部長

石川県小松市生まれ。1986年北國銀行入行。人事部人事課長、エリア統括店長などを歴任し、2019年取締役コンサルティング部長兼海外ビジネス戦略部長に就任。2021年3月からは常務執行役員法人ソリューション部長兼コンサルティング部長として総勢100名のコンサルティング専門部員をたばね、「地域企業の経営力向上=地域活性化への貢献」を念頭に置きながら、地域企業および各業界全体のさまざまな課題解決に取り組む。直近では、特に地域企業のDX実現に向けた企業の構造改革や役職員のマインドセット、リカレント教育の支援に力を注いでいる。


※役職は、インタビュー実施当時(2021年11月)のものです。



株式会社北國銀行

https://www.hokkokubank.co.jp

1943年設立。石川県金沢市に本店を置き、地域のリーディングバンクとして、「豊かな明日へ、信頼の架け橋を~ふれあいの輪を拡げ、地域と共に豊かな未来を築きます~」の企業理念のもと、地域のさまざまな活動でリーダーシップを発揮。顧客起点の経営戦略を実現すべく、銀行として顧客をサポートするかたわら、コンサルティング事業やシステム事業などの新規事業を拡大。2020年1月からは人材紹介業務を開始し、地域企業の経営課題に必要な中核人材の確保をサポート。2021年10月、株式会社北國フィナンシャルホールディングスを設立し、持株会社体制に移行。

石川県金沢市に本店を置く株式会社北國銀行は、およそ80年にわたり地域密着型の銀行として銀行業を営み、県内の金融機関では最大の店舗数を誇る金融機関です。同時に、いち早くデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、ITを活用した業務・働き方改革を実現してきた企業としても知られています。

前編では、北國銀行 常務執行役員の多田隆保さんに、北國銀行が実現してきた全社改革、多様な事業展開、地域企業への貢献、人材育成・人材紹介に対する思いなどについて、お話をうかがいました。

北國銀行のDXは、システムをトリガーとした全社改革

御社が推進してこられたDXについて教えてください

多田さん(以下、敬称略):北國銀行として取り組んできたDXについていろいろなところでお話しする機会をいただくようになりましたが、我々としては「DX」を意識して進めてきたのではなく、銀行の改革に取り組んでいるという意識です。そして、その改革を進める肝になるのはやはりシステム戦略だろうということで、デジタル技術を活用した取り組みを行っているというというのが、当行の取り組みの根本的な考え方です。

それを前提として、我々が20年ほど前から取り組んできたことをお話ししますと、第1段階ではコストを削減し強靱な体質をつくっていくこと、具体的には店舗の統廃合や、社内の間接費を含めたコスト削減を進めてまいりました。将来に向けてIT投資を進めていくためにも、原資、お金が必要ですので。

第2段階は、営業のあり方そのものを改革しました。銀行の論理で融資を伸ばしていくプッシュ型の営業から、お客様が真に求めるものに応える、顧客起点(カスタマージャーニー)の営業のあり方に変えていこうという取り組みです。

かつての銀行は、金融機関どうしの金利競争に勝ち抜いて融資を伸ばすという営業スタイルでした。それは“手前主義”といいますか、銀行の論理をベースにしたあり方です。それを、本当の意味での顧客主義の営業に変えていこうと。銀行の論理ではなく、お客様が求めるものを第一に考えてサービスの質にこだわる、本当の顧客起点の営業のあり方を追求しようと考えました。新聞などでいち早く取り上げられた「営業ノルマの完全廃止」もこの一環です。

第3段階は人事制度の改革で、これは今まさしく取り組んでいるところです。実際にお客様に接する行員のモチベーションを上げ、優秀な人材を育成していくためには、働く環境の整備と人事制度が非常に大事です。社会的にも「ジョブ型の人事制度への移行」が注目されていますが、我々も従来のメンバーシップ型人事制度からの移行を進めています。具体的には、自分たちのキャリアを自分たちで考え、そのためにどう取り組んでいくか、その取り組む姿勢を評価していこうというキャリア自律型の人事制度で、来春2022年3月から変更予定です。

これらの取り組みと並行して、システム戦略、デジタルの活用にも継続的に取り組んでいます。その目的は、社内の働き方を改革して生産性を上げること、お客様に本当の意味で役立つサービスを提供することにあります。つまり、顧客起点の営業を行うための全社改革にデジタル化が必要であったということです。デジタルを起点としたトランスフォーメーション——。これが我々のDXであるととらえています。

DXというと新しいシステムを入れればいいと勘違いされがちですが、御行はDXの本質をとらえた施策を20年前から実施しておられたのですね。20年ほど前から取り組んでおられるとのことですが、その開始当初の段階で、現在までの道のりや最終的なゴールが見えていたのでしょうか?

多田:銀行を取り巻く環境が変化するなかで、経営のあり方そのものを変えていかなければならないという危機感、量の重視から質の重視への転換の必要性は、おそらく20年前の当時から感じていたところです。しかしながら、デジタル技術の進化がここまで進み、先端技術の活用がここまで身近になることを予見していたわけではありません。

実際、業務効率化、生産性向上のための施策も、最初のうちは根性論で行っていたところもありました。「がんばって早く帰ろう」「業務のスタイルを見直して、少しでも早く帰れるようにしよう」と打ち出したり、仕組みの改善ではなく気合いで生産性を2倍にしようと提起したり、といった具合です。

けれど、そうした取り組みで例えば時間外労働を減らそうとしても、多少は減るものの抜本的に変わるということはありません。何かを根本的に変えるときには、システム化を図り、仕組みを変えるしかない。改革の施策を進めていくうちにそういうことも見えるようになり、必然的にシステム化、システム投資を進めるようになりました。

“銀行の論理”の営業から、お客様の課題解決をサポートする営業へ

融資を伸ばす営業から、お客様の課題解決をサポートする営業への変革を掲げ、御行ではコンサルティングサービスも手がけておられます。

多田:誤解のないよう申し上げますと、お客様が銀行に求める要素として「融資」は今も当然あります。ただ、お客様の調達手段も多様化しており、銀行に頼らなくても調達する手段が当然あるわけです。そういう状況で銀行がお客様の役に立てることとして、融資以外に何があるか。

お客様側に立ってみると、悩みは資金繰りだけではありません。ITの活用を進めたいけどどうしたらいいかわからない、プロジェクトを実施したいけれど任せられる人材がいない、会社を変えていきたいけどどう変えたらいいかわからない……。どの会社もその業績にかかわらず、何かしらの悩みがあるものです。そこに着目し、お客様の事業を理解して課題の解決をサポートする営業、いわゆるコンサルティング営業をということで、この事業を始めました。

銀行が提供する有料のコンサルティングサービスというあり方に、開始当初はお客様も我々自身も懐疑的なところがありました。お客様からしてみれば銀行は融資をするところであり、それ以外の相談をもちかけられるイメージはおありではなかったでしょう。銀行側も今まで融資一辺倒だったものが、課題解決のお手伝いをしてそれで料金をいただくなど本当にできるのだろうかと思っていた部分がありました。

しかし、今日まで一つひとつ実績を積み上げて、お客様にもその効果を感じていただけるようになり、「銀行にお願いできるのは融資だけではない」ということが伝わるようになっています。我々も、お客様が求めているものが何かということに目を向けられるようになっています。ここまでくるには時間もかかりましたが、地域活性化への貢献につながる、意義の大きい事業だと感じています。

御行は人材紹介事業も開始しています。その経緯は?

多田:我々が今メインとしている課題解決営業では、お客様の事業を理解し課題を共有しますが、人材不足という課題が非常に多いです。特に中小企業様に多く、数の上で足りないケースもあれば、質に課題を抱えていらっしゃるお取引先も。本来は時間をかけてじっくりプロパー人材を育てていくのがあるべき姿ですが、今、目の前の課題を早く解決するには、外部の人材を連れてきて改革する必要に迫られる場面もあります。

それに、会社改革とは風土を変えることでもあり、中の人間だけではなかなか難しいものです。そういうケースでも、外部の風を入れるというのは非常に大事な、場合によっては必要なことだと考えます。そういう状況にニーズがあるということと、これも地元企業の課題解決の一つの手段となり得るということから、人材紹介業の認可を2019年12月に取得し、2020年1月から開始しました。基本的には、企業の幹部人材をご紹介する方針で、地元企業の人材確保のお手伝いをさせていただいております。

企業の人材不足は深刻な課題ですね。

多田:大手の企業様ですとさまざまなつながりをお持ちで、そうしたところから外部人材を探したり、あるいは人材紹介やスカウトを専門とするような企業に依頼したりと、選択肢を増やしやすいかと思います。

他方、中小企業様の場合はそうしたコネクションも大手に比べると少ないです。また、必ず出てくるのが年収の問題です。それなりの人材を引っ張ってこようと思うと相応の条件を提示することになりますが、それが企業の予算と見合わないというケースも散見されます。人材からすれば働く環境に対する希望もありますので、その点でも採用のハードルがどうしても上がり、中小企業様には厳しい状況です。こうしたことは、実際に人材紹介業を始めてみて実感しています。


考えて行動する「プロセス」を評価する仕組みが結果を生む


さまざまな改革を通じて行員の方の働き方も大きく変わったことと思います。時間外労働も減りましたか?

多田:今の平均的な残業時間は、だいたい月3時間ほどです。これもよく誤解を招くのですが、当行では決して「残業するな」といっているわけではありません。残業は決して「悪」ではなく、必要な残業はすればいいというスタンスです。

ただ我々は、システムの導入でやり方を変えたり、仕事のあり方を見直してむだを省き効率化したりする取り組みを評価するという体制に変えており、これによって社内のマインドも変わっています。残業時間がどんどん減っていったのもその結果だととらえています。

リモートワークの導入は?

多田:コロナ禍で社会的にリモートワークが求められるようになり、我々もリモートワークでやってみるという取り組みを実施しました。弊行では2016年に、全員にSurfaceとスマートフォンを配布しており、どこでも仕事できる環境は整っています。

その結果を振り返ると、もちろんメリットもデメリットもあり、現在も「何でもリモート」とはなっていません。しかしながら、お客様とのやりとりも含めて、自宅にいてもテレワークで仕事ができることはわかりましたし、私も会社でないとできない仕事や重大会議は別として、可能なときはテレワークという働き方を活用しています。

変革の第2段階で営業ノルマを廃止したというお話がありました。これは銀行の経営戦略のみならず、行員の方々の人事評価にも大きな影響が及ぶ変化だったと思います。

多田:私も当時支店長を務めておりましたが、ノルマというのは目標としては非常にわかりやすいものです。社員はどういうプロセスを踏もうと、目標を達成すれば評価されます。その数字が積み上がれば店舗の業績は上がり、業績を上げた支店長は上にあがっていくことになる。その積み上げで、銀行全体の業績が上がります。

しかし、そのために新規の取引先をこれだけ増やし、融資をこれだけ伸ばすとノルマを課すのは銀行自身の利益のためであり、まさしく銀行の論理です。しかもその視座は短期的なもので、そこに関わる行員や銀行に成長はあったのか。さらにいえば。お客様の成長に本当に貢献していたのかという視点が抜け落ちています。

さまざまな業界から銀行業界にも参入してきているような市場環境で銀行として生きのびるためには、短期的な収益だけを見るようなやり方ではだめで、その業務に従事する社員が本当に問われるべきはそのプロセスであるべき、どういう考え方でどう行動したかが評価されるべきであるはずです。

そういう考えから、我々は営業ノルマをなくすと同時に、人事評価の対象から業績を外し、「どう行動したか」にフォーカスする評価に変えました。

反発も大きかったのでは?

多田:はい。私も含めた現場の支店長はかなり半信半疑で、「そんなことをやったら数字が落ちる」という意見も多く聞かれました。ところが結果としては、数字は落ちなかったのです。

もし結果が伴わなければ、最初の戦略が間違っていたか、戦略は合っていたけれども行動が間違っていたか、ということになります。でも結果はついてきた。ということは、おそらく戦略は間違っていなかったと考えることができる。裏を返すと、「それまでは『顧客第一主義』といいながら、自分たちの評価のために営業をしていたのだな」と解釈することもできます。このことは、顧客起点の経営戦略への転換に、また一つ大きな納得感を生んだのではないでしょうか。

明確な戦略に基づいて当たり前の行動をとれば、その結果は必ずついてくるといえます。結果がついてこなかったときには、検証を繰り返しながら施策を進めていくのが大事です。

地域企業の経営を支援する取り組みとしての人材育成・人材紹介とは


ここまでの変革を成し遂げてこられた原動力の源泉はどこにあったと思われますか?

多田:いくつかの要因はあると思いますが、やはり強い信念のもとにリーダーシップを発揮し施策を推進できる人材がいたこと、そしてその思いに共感する仲間がいたことが大きいと私は思っています。

かつては銀行といえば、預金を集めてお金を貸していれば儲かっていました。ところが自由金利で競争が激化し、それまでのやり方を続けていれば成長はないだろうとの思いは、銀行の経営側だけでなく働く多くの人がもっていた危機感だったと思います。

そのなかで当行では、もともとオーナー系であったところからプロパーの生え抜きの頭取が誕生し、そのトップが「システム戦略をトリガーとした会社改革」を推進するメンバーの背中をしっかり押してくれた。これは大きい要素です。

御行における人材活用を今後どのように推進されていくか、お考えをお聞かせください。

多田:我々がここまでDXを進めてきた大きな目的の一つが人材育成です。経営人材を育てていきたいというのはトップともいつも話していますし、これからはデジタル人材も育てていかないといけない。

我々は海外にも目を向けており、従来よりあるシンガポール支店に続き、本年10月にタイ、11月にベトナムにコンサルティングの現地法人を設立しました。これからは、ファイナンスとコンサルティング業務を東南アジア一円で行えるような体制を整え、「東南アジアに強い北國フィナンシャルホールディングスグループ」となれるよう、グローバル人材の育成もしていかなくてはなりません。

ですから基本的には、社内の人間を育成しスキルを上げていくことに力点を置いています。とはいえそのスキルとは、純然たる銀行業におけるスキルだけを指すものではありません。むしろ、銀行にいるときだけではなく、銀行を出てからも世の中の会社のために役立っていく人間を育成したい。我々は人材輩出企業でもありたいと思っているのです。そのため当行では、リカレント教育(教育と就労を繰り返し、社会人が学び直す教育システム)を推奨しています。

従来の行員は残業が多く帰宅時間も遅いという生活で、勉強しろといっても難しいものがありました。しかし、働き方そのものを変えたことによって、行員が自ら学ぶ余裕が生まれました。行動を評価する仕組みに変え、何を学びどう行動すればいいかということを自ら考えて積極的に動く行員も増えておりますし、その学びについては当行も補助して後押ししています。

人材紹介業を手がける企業として、企業の人材活用に関して今後展開されたいことは?

多田:我々はいつも「ITと人材は車の両輪」と申し上げているのですが、お金を投資してシステムを導入しIT化を図ることが可能であるのに対して、人材を社内で育てるというのはなかなか時間のかかる話で、思うようにいかない部分があります。

とはいえ、時間は待ってくれません。新しいことを始めるには時間を買わなくてはならない部分もありますし、フィールドを広げていくためには相応の人材も必要です。そういう状況では、外部のプロフェッショナル材を有効に活用することは今後ますます必要になり、お客様の外部人材ニーズも生じるでしょう。しかし優秀な人材の中途採用は、先にお話ししたように、年収や環境の面で折り合うのが難しいという問題があります。

そこで新たな選択肢となり得るのが、副業人材の活用です。我々のお客様である地域の企業様にとっては、副業人材の活用というのはまだまだ慣れていない部分ですが、ピンポイントのプロジェクトや、期間限定で「この部分を強化したい」といった案件に関しては、副業人材の活用は非常に有効であると考えています。

そこで、今後はそういった選択肢についても、事例も交えながらお客様にご紹介して認知を高めていきたいと思います。我々にはそういうかたちでも、地域企業の経営力を向上させるお手伝いができますし、またそうするべきだと思うのです。

ありがとうございました。後編では、御行のサポートを通じて実際に副業人材の方を活用されたお客様にお話をうかがいます。

〈後編:副業人材のスキルと提案が老舗企業に大きな変化と改善をもたらし、会社と事業は次のステップへ〉

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